頭文字M 第五話 「自由への暴走 ― Sugar Less、二度目の夜明け」
Tsukuba山の夜に響いた赤色灯のワルツ。
その日、峠の英雄Sugar Less(武藤)は、
自由と引き換えに冷たい鉄格子の中に閉じ込められた。
彼の熱狂的な走りは、一時の栄光と、そして深い絶望をもたらした。
S2000のエンジン音を忘れた刑務所の日々はSugar Less(武藤)にとって拷問だった。
しかし、彼の心は決して折れていなかった。
外の世界、そして彼女との約束が彼を突き動かす原動力となっていたのだ。
そして一年後。。。。
Sugar Less(武藤)は綿密な計画の末、看守の目を欺き、
見事刑務所からの脱獄を果たす。
闇夜に紛れて駆け出す彼の足は、自由への渇望と、
再会への期待に満ち溢れていた。
目指すはかつて彼とS2000が幾度となく走り抜けた、あの峠の麓。
そこには、彼の帰りを信じ、ただひたすらに待ち続けている
たった一人の女性がいた。
「楓…」
Sugar Less(武藤)の恋人、桜木 コーネリアス 楓(さくらぎ こーねりあす かえで)。
彼女は、瞬が捕らえられてから一度も彼を見捨てることはなかった。
面会が許されない中でも手紙を通じて
ひたすらに彼を励まし続けた。
そしてSugar Less(武藤)が脱獄を決意したその日、
楓もまた、ある決意を胸に峠の麓で彼を待ち続けていたのだ。
月明かりが照らす人気のない駐車場に、一台の車が停まっていた。
そのシルエットはSugar Less(武藤)の記憶に深く刻まれた、紅いS2000。
まさか、と息を呑む瞬の前に、車の陰からそっと楓が姿を現した。
「Sugar Less(武藤)…! 待ってたわ…!」
楓の瞳には涙が溢れ、その手にはS2000のキーが握られていた。
Sugar Less(武藤)は信じられない思いでS2000に触れる。
あの時、警察に押収されたはずのS2000が、なぜここに…?
「私が…取り戻したの。あなたのS2000。そして…」
楓はSugar Less(武藤)の目をまっすぐに見つめた。
その眼差しは以前にも増して強く、そして何かを決意したかのように燃えていた。
「これからは、私があなたを守る。もう、誰にもあなたを捕まえさせない。」
そう言うと、楓はSugar Less(武藤)にキーを差し出した。
しかし、Sugar Less(武藤)はそれを受け取らず、困惑した表情で楓を見つめた。
楓の言葉の真意が理解できなかったのだ。
「…どういうことだ、楓?」
「あなたにはもう、二度と捕まってほしくない。だから…私が、一緒に戦う。」
楓の言葉に、Sugar Less(武藤)は目を疑った。
楓は以前から車好きではあったが、峠で走ることはなかったはずだ。
「Sugar Less(武藤)、私はこの一年間、ずっと練習していたの。
あなたのいない間、あなたのS2000を、私が走らせていた。
あなたの代わりに、峠を守るために…!」
楓はS2000のドアを開け、運転席に乗り込んだ。
そのドライビングテクニックは、かつてのSugar Less(武藤)を彷彿とさせるほど淀みがなかった。
そして彼女のシートに置かれていたのは、見慣れないグローブとヘルメット。
「…まさか、お前が『Sugar Less』だったのか…?」
Sugar Less(武藤)の脳裏に、かつて耳にした噂が蘇る。
彼が逮捕された後、Tsukuba山には新たな「赤いS2000」が現れ、
その圧倒的な速さで数々の走り屋を打ち破っているという噂。
そのドライバーの正体は謎に包まれ、誰もその素性を知らなかった。
「ええ。あなたが戻ってくるまで、私が『Sugar Less』だった。
さあ、Sugar Less(武藤)。
もう一度、あの頂上まで、一緒に走ろう。」
楓の言葉にSugar Less(武藤)は衝撃を受けた。
彼はS2000の助手席に乗り込む。
エンジンが咆哮を上げ、S2000は再び夜の峠へと飛び出した。
しかしその走りは、かつての彼のそれとは明らかに違っていた。
楓のドライビングは、Sugar Less(武藤)のそれよりもさらに冷静で、
しかし恐ろしいほどの速さを秘めていた。
「楓…お前は…!」
Sugar Less(武藤)の目の前には、新しい「Sugar Less」の姿があった。
彼の不在の間に、峠のクイーンとして覚醒した楓。
しかしその背後には、またしても彼らを追い詰めるパトカーの赤色灯が再び迫っていた。。。
二度目の赤色灯のワルツ。
しかし、今度は一人ではない。
彼らを待つのは、自由か、それとも再びの鉄格子か。
熱い峠の伝説は、まだ始まったばかりだった。。。。
※この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等は実在のものといっさい関係ありません。
またここに描かれる走行シーンを真似することはしないでください。
車を運転する際は交通ルールを守り、安全運転を心がけてください。