ガレジェクトX~静寂の中、己と向き合う食事
いつもお世話になっております!アナタのことを想ってやまない三郷店のstaff-Sです!
「朝の闘士、甘美なる決断 ― マックグリドルへの道」
午前6時41分。
空はまだ夜と朝の境界線を引ききれず、淡い群青色を残していた。
その静けさを破るように、一台の軽自動車が動き出す。
今回、我々ガレジェクトXが目指すものは外食界の王者、
圧倒的店舗数と歴史、社内育成マニュアル、食の安全に携わる者としての責任、
社会に貢献するという責務、すべてを兼ね備えた絶対的存在感。
そう、その名は・・・
――マックグリドル ソーセージエッグ。
甘美なる円盤。
人生に疲れた大人たちを、朝のひとときだけ少年へ戻す魔力を持つ。
男は今日も、その誘惑に抗うつもりはなかった。
午前6時48分。
黄金のアーチが視界に現れる。
朝日に照らされた「M」が、男の心に静かに灯をともす。
「今日も頼むぞ……相棒。」
車を降り、店内へ向かう。
自動ドアが開くと、コーヒーの香りと、ふわりとした朝の温かさが迎えてくれた。
レジへ向かう必要はない。
今はタッチパネルの時代だ。
男は迷いなく画面に手を伸ばす。
静かな指先の動きが、朝の儀式を進めていく。
▶ 朝マック
▶ マックグリドル ソーセージエッグ セット
▶ ドリンク:ホットコーヒー
▶ サイド:ハッシュポテト
▶ 追加:ホットアップルパイ
これが、男が辿りついた最適解。
甘さ・塩気・熱さの三位一体。
“中年の黄金比”であった。
最後に「支払いへ」を押し、
クレジットカードをタッチする。
ピッ——。
乾いた電子音が、まるで勝利宣言のように響いた。
午前6時52分。
番号を呼ばれ、トレーを受け取る。
その上には、甘い香りを湛えたマックグリドル。
黄金色に輝くハッシュポテト。
湯気立つホットコーヒー。
そして、封を切られる時を静かに待つホットアップルパイ。
窓際の席に腰を下ろし、男はまずコーヒーをひと口。
もちろんブラックで、だ。
ミルクやシュガーを入れてまろやかさと甘みをプラスすると逆に雑味が出てしまい
コーヒー本来の味や香りを感じ逃してしまう。
プラスチックの封印(飲み口)を慎重に開放する。
刹那、立ち上るのは褐色の精霊たち(湯気)。
それは遥か彼方の異国、ブラジルやコロンビアの大地が奏でる土の記憶。
深く焙煎された豆の焦げた香りが、我が鼻腔を優しく、しかし力強く蹂躙(じゅうりん)していく。
これは単なる匂いではない、「目覚めよ」という神の啓示だ。
苦味が喉を落ちるたび、意識が研ぎ澄まされていく。
「・・・これだ」
次に、銀紙の包みを開く。
メープル香る甘い蒸気が立ち上がる。
マックグリドル——
甘いパンケーキに挟まれたソーセージの塩気、
卵のまろやかさが共演する、禁断の逸品。
男はひと口かじる。
その瞬間、脳裏に電撃が走った。
「なん・・・だと・・・!!」
――衝撃。
甘味。
塩味。
旨味。
それらが、口内で互いの存在を高め合いながら混ざり合う。
もはや脳内は様々な感情に支配され、強く噛みしめ、
目を閉じると心に押し殺していたある感情があふれ出し、一粒の涙が頬を伝った。
「……間違いない。」
若い頃は知らなかった。
“味わい”とは、こうまで人生を豊かにするものなのかと。
次に、ハッシュポテトを手に取る。
表面は黄金色に揚がり、美しいザクッと感を約束している。
噛んだ瞬間、音が響いた。
サクッ——。
たしかにそこにあるホクホクとした芋の温もり、そして塩気。
ブラックコーヒーとの相性は、ほとんど犯罪的ですらあった。
男の頬は自然に緩んでいた。
そして最後に、ホットアップルパイ。
包みを開けると、パイ生地の香ばしい匂い。
男は迷わず、かじる。
熱い——!!
想像以上の温度が、口内に襲いかかる。
「熱っ……! ……でも、うまい……!」
甘酸っぱいリンゴの甘味が、熱の痛みと共に押し寄せる。
その瞬間、男は確信した。
――これはすでに、食べ物というより“事件”である。
人生は熱さと甘さ、そして痛みでできている。
そのすべてを、この一本が体現していた。
午前7時03分。
食べ終えたトレーを返却し、男は外に出た。
朝の空気は冷たい。
だが胸の奥には、確かな炎が灯っていた。
車に乗り込み、エンジンをかける。
「よし……行くか。」
甘味、塩味、苦み、酸味、熱さ、
それらが残した余韻を背に、男は日常という戦場へ向かっていった。
――誰にも知られることのない、ひとりの中年男の朝。
男は笑った。
その視線の先には淀み無い青空、そして眩しい朝日が照らしていた。
だがしかし、その歩みには確かな誇りが宿っていた。
ガレジェクトX
挑み続ける者たちの、知られざる物語。